晩秋、おじいちゃん
京都市内にある将棋道場に遊びに行ってきた。
アマ三段、四段がゴロゴロいる道場でアマ二段の僕は歯が立たなかった。
日が暮れだすと強豪勢はそそくさと帰っていき、自分も帰る雰囲気になっていた。
するとそのおじいちゃんが声をかけてくれた。
「一局やろう。」
もう既に二人しか残っていなかった。
初段のおじいちゃんは僕のことをあれこれ聞きながら相手をしてくれた。
「もう一局やろう。」
「もう一局。時間はええか?」
何回やってもおじいちゃんは僕に勝てなかった。
「お兄ちゃんここ初めてやろ?もっと指したいんちゃう?」
優しいなぁ。
結局僕が満足するまで相手してくれた。
帰り道は真逆だった。
「バスでも帰れるから!」と言われ一緒に帰ることに。
「京都駅まで230円やから。」と言って手の平に500円玉を押し付けてくる。
最初は丁重にお断りしていたが最後の方には取っ組み合いみたいになっていた。
はたから見れば高齢者虐待だ。
やはり職業柄、体のことが気になる。
実はおじいちゃんには癌があった。手術をしていまは抗がん剤で治療中らしい。
その副作用で手がしびれ、コップも持てないことがある。
「毎日あそこにいるよ。」
おじいちゃんはある意味命懸けで将棋をしていた。
なんか、やるせなかった。
そしてまた明日会えるからと言わんばかりに、振り返ることもせずにバスに乗り込んでいった。
その日はめちゃくちゃ寒くて、おじいちゃんのその痩せた体が痛々しかった。
色々考えた一日でした。